東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2054号 判決 1980年12月17日
控訴人
三大物産株式会社
右代表者
木戸真一
右訴訟代理人
石塚久
右訴訟復代理人
北河隆之
被控訴人
大新商事株式会社
右代表者
福原龍男
右訴訟代理人
鈴木勝
主文
一 原判決を取り消す。
二 控訴人が原判決別紙目録記載の供託金の還付を受ける権利を有することを確認する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す、被控訴人は控訴人が原判決別紙目録記載の供託金の還付を受けることに同意せよ。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴代理人が、被控訴人の主張に対する答弁として、新たに、「指名債権質の第三債務者以外の第三者に対する対抗要件としての通知、承諾は、質権設定と同時に又はその後になされることを要するから、質権設定の相手方を特定することなくあらかじめなされた通知、承諾は、対抗要件としての効力を有しない。」と述べたほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
一当裁判所の確定した事実関係も、原判決理由中の説示(原判決六枚目―記録一五丁―表九行目から同八枚目―記録一七丁表六行目の「証拠はない。」まで。但し、同七枚目―記録一六丁―裏七行目の「両角善吉」の次に「の証言」を加える。)と同一であるから、これを引用する。そこで、被控訴人が、若原から設定を受けた質権をもつて控訴人に対抗し得るか否かにつき判断する。
指名債権質の対抗要件としての通知は、質権の目的である債権の債権者がその債務者(以下、第三債務者という。)に対し、債権に質権を設定した事実を通知することであり、又、承諾は、第三債務者がその債権に質権が設定された事実の認識を表明することであるから、右通知、承諾は、具体的な質権設定に関して、質権設定と同時に又はその後になされたものでなければならないと解するのが相当である。この点、第三債務者に対する対抗要件は、もつぱら第三債務者を保護することを目的とするものであるとして、第三債務者が事前に、しかも質権者を特定しないでした承諾も有効であると解する余地もないではないが、第三債務者以外の第三者に対する対抗要件は、特定の質権者と他の質権者や質権の目的である債権の譲受人等の第三者との間の法律的地位の優劣を決するための基準となるものであるから、少なくとも第三者に対する関係においては、右のような承諾は、対抗要件としての効力がないものというべきである。これを本件についてみると、前掲乙第三号証の承諾書には、若原が自己の債務の担保として本件敷金返還請求権を他に差し入れることを、両角が承諾する旨の記載があるのみで、担保権の種類や特定の担保の差入れ先の記載がなく、右承諾書は、単に抽象的に、若原が本件敷金返還請求権を他に担保として差し入れることを承諾する趣旨のものであつて、若原が被控訴人のためにこれに質権を設定することないしは設定したことを承諾する趣旨のものでないことは明らかであるから、右承諾書による承諾は、被控訴人の質権を第三者に対抗するための要件としての承諾には当らないものというべきである。したがつて、他の対抗要件の存在について主張、立証のない本件においては、被控訴人は、その質権をもつて控訴人に対抗することはできないといわなければならない。
二右のとおりであるから、控訴人は、被控訴人に優先して、原判決別紙目録記載の供託金の還付を受ける権利を有するものである。ところで、控訴人が右供託金の還付を受けることに被控訴人が同意しなければならない法律上の根拠はないから、被控訴人に対し右同意を求める控訴人の請求は理由がないというほかはないが、控訴人が本訴を提起した趣旨が、右供託金の還付を受けるのに必要な供託規則二四条二号所定の「還付を受ける権利を有することを証する書面」としての判決を得ることにあることは、その主張自体から明らかであるがら、控訴人の本訴における請求の趣旨には、当然、右供託金の還付を受ける権利を有することの確認を求める趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうとすると、被控訴人が控訴人に右権利のあることを争つていることは本件訴訟の経過から明らかであるから、控訴人の右権利の確認を求める請求は理由があり認容すべきである。
以上の次第で、右判断と異なる原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して控訴人の右請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(田宮重男 新田圭一 真榮田哲)